LAユリ『Shinji Ono』について

① 今回新品種のユリ球根に小野選手の名前を付ける理由を改めて教えて下さい。例えば、オランダ産チューリップの球根は日本で既にかなり流通しているが、ユリ球根についてもさらなる市場の開拓につなげたいなど、具体的な狙い、理由等はありますか?

日本国内で流通するユリ切り花の約80%はオランダ産球根です。主にユリの代名詞として知られるカサブランカのように、オリエンタルユリが生花販売店にも一般消費者にも認知されています。実は、ユリにはさまざまな系統に分かれたカラフルな品種が存在します。新しいユリが次々と発表されているにもかかわらず、カサブランカが認知された時代から認識が変わっていない現実があります。

新型コロナウィルス感染症をきっかけに販売に苦慮した花業界、特にユリ産業に明るい話題と勇気を届けてくれたのは、日蘭で活躍されたスピードスケートの小平奈緒選手にちなんで名付けられた「Kodaira」でした。オランダのナショナルカラーでもあるオレンジ色のLAユリで、2020年10月に命名されました。オランダで栽培された球根が日本に導入され、切り花として販売されるまでには約2年の時間が必要でした。

新型コロナウィルス感染症が収まり、明るい兆しが見え始めた2022年10月には、同じく日蘭で活躍された小野伸二選手にちなんで、チームカラーとしても縁のある赤色のLAユリに「Shinji Ono」と命名されました。「Kodaira」と同様に、「Shinji Ono」の球根も日本だけでなく、オランダから世界に向けて販売されていきます。

球根の開発にはおよそ11年の歳月と莫大な費用が必要です。多くの人の手を経て、消費者に美しいユリが届けられ、生活に潤いをもたらします。1996年をピークに、日本の球根輸入数は減少しています。現在、日本はオランダからの球根輸入数として世界第6位の国となっています。当然、国内のユリ切り花生産者が安定的に継続的なユリ栽培をできるように、魅力あるユリと話題を届けていかなければなりません。

リリープロモーション・ジャパン(以下LPJ)は、日蘭のボランティアシステムにより参加団体加入各社から徴収された資金をもとに、日本でのユリ切り花、ユリ球根の普及を行うために、2012年1月に設立されたプロモーショングループです。LPJは、生産者からエンドユーザーまで縦の関係を作り、力強いまとまったプロモーションを行うことを目的に設立されました。

日本のユリ切り花生産者が安定的な経営を続け、安心してユリを栽培できるよう応援するため、これまで生花店向けにさまざまなプロモーションを行ってまいりましたが、2020年のプロモーションプログラムからは2年ごとにテーマカラーを決めて活動しており、その中で新品種のユリの命名が行われています。

2020年10月に命名された LAユリ「Kodaira」

2022年10月に命名された LAユリ「Shinji Ono」

新品種のユリが発表されるまでに、11年以上の月日がかかります。

② 花・球根に関してオランダと日本が深い関係にあるとのことですが、具体的にはどのような関係性を指していますか?
例えば、オランダから日本にチューリップが伝来したのは江戸時代後期だと承知していますが、実際に両国間で花・球根の貿易はいつ頃から行われるようになったのでしょうか? また、上記以外で両国間の花・球根の関係性を象徴するような出来事等はありましたか?

現在流通しているユリのほとんどは園芸用に改良されています。しかし、日本には自生種が数多く存在し、そのユリは非常にカラーバリエーションに優れています。気候風土の異なる日本全国に分布するユリは、当時の海外の品種ハンターからすれば「宝」でした。1828年にシーボルトがユリの球根を持ち帰りました。絹糸と並ぶ日本の主要輸出品目として、横浜開港以来テッポウユリが輸出され、ピーク時には4000万球にも上りました。

しかし、日本から輸出されていたテッポウユリの球根も価格の暴落やウイルスの問題により、昭和10年頃をピークに減少に転じ、戦争のために輸出は完全に途絶えてしまいました。オランダに持ち込まれた日本のユリは、オランダの育種会社によって品種改良、増殖されていきました。1960年代には、日本のヤマユリ、カノコユリ、タモトユリ(既絶滅)を基にオリエンタルユリが作出され、『カサブランカ』などが誕生しました。オランダではさらに豪華さや色のバリエーション、栽培の容易さなどを求めて品種改良が進みました。

1988年のチューリップ球根の輸入自由化(隔離検疫免除)に続き、1990年にはユリ球根の輸入自由化(隔離検疫免除)も実施されました。これにより、安価でバラエティ豊かなユリが日本に紹介され、バブル経済の影響もあり、多くの支持を得ました。

 大きな香り高い花「ヤマユリ」

③ オランダはチューリップ球根の輸出で世界1位かと思います。実際、世界のチューリップ球根の輸出のうち、オランダが占める割合はどの程度でしょうか?また、オランダのユリ球根の輸出量と世界に占める割合がどの程度かも教えて下さい。

95%です

④ オランダのユリ球根の輸出のうち、日本に対する割合はどの程度ですか?

2023年(PQ証明書に基づく数)
EU圏外ユリ球根輸出数     1,297,104,000 

順位  国名 球数 2023/2022増減
1 中国 308,594,000 113%
2 コロンビア 150,909,000 113%
3 ベトナム  141,081,000 120%
4 メキシコ 139,403,000 123%
5 アメリカ 101,160,000 94%
6 日本 64,137,000 90%
7 コスタリカ 45,966,000 128%
8 エクアドル 44,761,000 108%
9 台湾 41,691,000 96%
10  オーストラリア 32,632,000 85%
11 インド 31,617,000 177%

オランダ市場からの概算
オランダ国内切り花生産者向け                     300,000,000
オランダ外EU圏内向け                                100,000,000~120,000,000

⑤ オランダの花と言えばチューリップの印象が強いですが、今回小野選手の名前を冠するに当たってチューリップではなくLAユリの新品種を選んだ理由を教えて下さい。

日本国内でユリは、切り花産出額において菊、バラに次ぐ位置付けにある重要な切り花です。また、ユリの切り花は輸入が少なく、国内産でしか供給できない特性があります。リリープロモーション・ジャパン(LPJ)では、2年ごとにプロモーションのテーマカラー(オレンジ~赤~黄~白~ピンク)を設定しており、今回のプロモーションでは小野選手にふさわしい赤色のLAユリが選ばれました。

⑥ LAユリの球根「Shinji Ono」はフレッターデンハーン社Vletter & Den Haanが開発したものかと思いますが、いつ開発されたのか、特徴を教えて下さい。

2014年に交配され、2017年に選抜されました。中国市場・日本市場では好まれるタイプの赤色(朱色)として選ばれました。

⑦ 2023年にオランダ国内にて球根栽培開始、2024年2月に球根が日本に輸入され、3月に切り花生産が開始、5月に切り花として市場出荷予定と情報があったのですが、既に切り花は日本に流通していますか?

2023年の悪天候の影響による不作のため、当初の予定より少ない数量が日本に導入されました。日本国内での初めての栽培と切り花出荷は5月下旬で、約400本ほどでした。国内で流通するユリ切り花の本数を1kgの米粒に例えると、「Shinji Ono」のユリはそのうちのわずか5粒程度の割合です。そのため、一般の生花販売店で見ることができるのは数年後になるかもしれません。

⑧ 元々小野選手の名前を付ける予定でフレッターデンハーン社が今回LAユリの開発をしたのでしょうか?また、名付けたのは、フレッターデンハーン社もしくはオランダ大使館どちらになりますか?そして、今回のように著名人の名前が球根に付けられるのはオランダでは良くあることですか?

ユリの開発には月日がかかり、作出された特に有望な新品種を品種登録する際に、小野選手にちなんだ色目のユリにお名前を冠しました。名付けたのはリリープロモーション・ジャパンとフレッターデンハーン社と協議の上、小野選手に許諾いただき登録にいたりました。著名人の名をつけることはありますが、長く世界で愛される品種になるには幾多の課題と長い道のりがあります。過去オランダではチューリップに著名人の名がつけられたことはあります。最近は新品種のユリにオランダ出身の女子スピードスケート選手(国技)の名前がつけられることもあります。ただ、オランダ出身でない著名な男性スポーツ選手の名前がつけられるのは初と言ってもいいでしょう。海外では当たり前でも日本では男性が花を持つイメージが少ないです。男性にこそ花を持って欲しいという思いからも、今回の命名はユリ業界だけでなく、花業界の大きな期待が込められています。